相続させたくない人がいる方必見!相続人(子どもや兄弟など)の相続分を減らす方法
1.相続させたくない! まず確認するべきこと
被相続人が死亡してから、法定相続人が他の相続人に対して「あの人には相続させたくない」と考えることは珍しいことではありません。「私がひとりで親の面倒をみてきたのに、全く連絡すら取らなかった妹が、親の財産を相続するのは納得できない」などと思う方もいるでしょう。
まずは、他の相続人に相続させないために確認すべき事項を解説します。
(1)推定相続人を廃除しているか
まずは、被相続人が、「推定相続人の廃除」という手続きをしているかどうかを確認しましょう。
推定相続人とは、被相続人が死亡した場合に相続権があると考えられる人のことです。廃除の手続きが取られていた場合、廃除された相続人は、すでに相続する権利を失っています。また、廃除された相続人は、遺留分すらも請求することはできません。
廃除された推定相続人の戸籍には、廃除された旨が記載されているため、確認してみましょう。
なお、推定相続人の廃除は、被相続人の意思によってのみ行うことができる手続きです。したがって、被相続人が存命時に家庭裁判所の廃除の調停あるいは審判の申立をして、廃除の調停が成立するか家庭裁判所が廃除の審判をしなければ効力がありません。
推定相続人の廃除が認められる理由は以下のようなものですが、家庭裁判所で実際に廃除が認められることはまれです。
- 被相続人に対する暴力などの虐待、重大な侮辱
- 被相続人その他に対する著しい非行
- 被相続人に対し著しい金銭的、精神的負担をかけた
- 反社会的団体への加入
- 重大な犯罪を犯し有罪判決を受けた
(2)遺言書に相続人の廃除について記載されているか
推定相続人の廃除は、遺言によって行うことも可能です。
遺言書がある場合は、家庭裁判所による検認を受けてから、廃除について記載されているかどうかを確認しましょう。遺言書に廃除を希望する旨が記載されている場合は、遺言執行者が家庭裁判所に対して廃除を請求します。遺言執行者の指定がない場合には、まず遺言執行者の選任を申し立てましょう。
なお、公正証書遺言の場合は、家庭裁判所による検認は必要ありません。遺言執行者に連絡して家庭裁判所に対して廃除の請求をしてもらいます。
(3)相続欠格が認められるか
相続欠格とは、本来相続人となるべき者が、民法891条によって規定されている相続欠格事由に該当するときに、その相続権を失うことをいいます。
相続欠格の条件は以下のとおりです。
- 被相続人や先順位・同順位の法定相続人を殺したり殺そうとしたりして刑罰に処せられた
- 被相続人が殺されたことを知っているのに告発や告訴をしなかった
- 遺言書を改ざん、隠蔽、破棄した
- 遺言書を自分に有利な内容にするため被相続人を脅迫して書かせた、だまして書かせた
このような事実があれば、相続欠格となり、その者は相続人の資格を失います。
(4)代襲相続の可能性を確認する
相続の廃除や相続欠格が認められても、代襲相続は妨げることができません。代襲相続とは、本来の相続人がすでに亡くなっている場合等に、その子どもや孫(被相続人からみれば孫やひ孫)が相続人の地位を得ることをいいます。
相続人の廃除があったり、相続欠格が認められたりして、当人を相続から外すことができたとしても、代襲相続は起きてしまうため、注意しましょう。
2.遺産分割協議で特定の法定相続人に相続させないようにすることはできる?
被相続人が亡くなった後は相続人の廃除はできません。また、相続欠格も要件が厳しいため該当するケースは少ないでしょう。そこで、次に検討したいのが、遺産分割協議での相続阻止です。
遺産分割協議でどのようなことができるのか、また注意するべきポイントはどのようなものなのか、みていきましょう。
(1)相続人は同等の立場で協議を行う
まず、相続人は、被相続人との関係や生活態度などを問わず対等な立場であることを念頭に置いておきましょう。
遺産分割協議では相続人全員が同意しなければ、協議は成立せず、遺産を分割することはできません。したがって、相続させたくないからといって強硬な態度に出てしまうと、交渉が決裂してしまい、長期間にわたって話し合いがまとまらず、膠着状態に陥ってしまうおそれがあります。
遺産分割協議では、感情的にならず冷静に交渉しましょう。
(2)寄与分を主張する
寄与分とは、相続人が被相続人に対して、特別の寄与を行った場合に寄与を相続分に反映することです。
特別の寄与とは、被相続人の財産の維持や増加のために貢献したことをいいます。具体的には、被相続人が介護認定を受け、相続人が無償で介護をしていた場合(東京家庭裁判所では、要介護2以上で在宅介護の場合に特別の寄与があったとして寄与分を認めています。)や、被相続人の事業を無報酬で手伝っていた(事業専従者)場合などに認められます。
寄与分は、遺産から寄与分を差し引き、法定相続分で配分した後に、寄与相続人の相続分に加えるものです。
たとえば、相続財産が2000万円、法定相続人が兄弟ふたりだけの状況で、兄の寄与分が400万円と認められた場合、
寄与分がなければ、法定相続分として兄弟で1000万円ずつわけることになりますが、弟の寄与分400万円を遺産から除外し1600万円を800万円ずつわけ、兄は寄与分400万円を加え、兄1200万円弟800万円にわけることになります。
寄与分は、相続人間の協議で決定できないときは、家庭裁判所に遺産分割とは別に寄与分を定める審判の申立をして、審判で寄与分を決めてもらわなければ、遺産分割に反映されませんので注意が必要です。
寄与分は、他の相続人の遺留分を侵害することはできず、寄与分で他の相続人の相続分を減らすには、遺留分が限度ということになります。
(3)特別受益を主張する
被相続人が特定の相続人に対してお金などを与えていた場合はそれを特別受益として評価し、その人の相続分から引くことが可能になる場合があります。代表的な特別受益は、結婚や起業の際の高額な資金援助、借金の肩代わり返済などが挙げられます。
相続させたくない相続人が、特別受益を受けている場合は、それをいわば「遺産の前渡し」として計算することで、相続金額を減額することができるのです。
たとえば、遺産が1000万円、法定相続人が兄弟ふたりだけの状況で、被相続人から弟への特別受益が1000万円あった場合を考えてみましょう。
相続財産は遺産に特別受益の1000万円を加えた2000万円となり、弟は相続分の1000万円を前渡しですでに受け取っているものとされて差し引きゼロとなり、兄が遺産の1000万円を取得することになるので、結果的に相続をさせないという目的が果たされます。
(4)不当利得返還請求を行う
相続人の一部の者が、被相続人の財産を無許可で使い込んでいた場合は、「不当利得返還請求」という手続きを行うことで、奪われた財産を取り戻すことができます。不当利得返還請求を行うことができるのは以下のような事例です。
- 相続人が被相続人の預貯金を勝手に引き出して使った
- 相続人が被相続人の現金を使い込んだ
- 相続人が被相続人の家賃収入等を使い込んだ
このような事実が確認できた場合は、使い込みの証拠を確保して返還を求める交渉を行い、交渉で相手が認めない場合は訴訟を提起することになります。
なお、返還を求められる金額の上限は、不当利得返還請求をする相続人の法定相続分(使い込み相続人に全部相続させる遺言がある場合は、遺留分)までです。勝手に使い込まれた金額が1000万円で、請求者の法定相続分が500万円という場合は、500万円のみ請求が認められます。
3.相続問題を弁護士へ依頼するメリット
特定の相続人に相続をさせたくないと考えている場合は、弁護士への依頼をおすすめします。
なによりのメリットは相手方も弁護士に依頼し、裁判所の審判や判決を予想した解決が可能となり、遺産分割協議が成立しやすくなります。
加えて、以下のことが可能となります。
(1)法律と判例に基づいたアプローチが可能
弁護士は感情での争いになりやすい相続について法律と判例を元に妥当なラインを提案します。それぞれの数字に「なぜ」が伴っているため、他の相続人の納得を得やすいのです。
相続させたくない相続人がいる場合も、法的に何ができるのか親身になって考えます。どのようなアプローチであれば、納得できる結果になるのか、また、相続分を減らすことができるのかを明確にし、提案することが可能です。
(2)豊富な解決事例を活かして依頼者の保護に務める
相続の問題を相談するときは、豊富な解決事例がある弁護士がおすすめです。弁護士は遺産分割協議において依頼人の不利益を減らす方法を模索し、依頼人に有利な結果となるよう、交渉や提案を行います。
また、相続は合意が長引くほど複雑になりがちであるため、素早い解決・合意が重要です。スムーズに合意できれば相続人の負担を軽減することも可能でしょう。
豊富な解決実績を持つ弁護士であれば、親身になって相談に乗り、適切な解決策を提案しやすいともいえます。
(3)交渉から訴訟まで代理することができる
弁護士は専門資格として依頼者の代理をすることが認められています。遺産分割協議から弁論が必要となる裁判までワンストップで対応できるため、心理的負担や依頼の手間がなくなることは大きなメリットでしょう。
(4)相続税の申告にも対応することができる
弁護士は、遺産分割協議が終わった後に発生する相続税の計算や申告を引き受けることもできますが、相続税申告は相続税申告に手慣れた税理士にチェックしてもらうのがよいで共同受任の形態をとるのがよいです。
4.まとめ
相続は大きな財産が移動する機会であり、相続権の有無はその人の生活を左右させることさえあります。そのためただ「相続させたくない」だけでの解決は難しく、法的な専門知識を基にした論理的な交渉が必要です。
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この記事の執筆者

弁護士 藤井義継
専門分野
相続・離婚など家事事件経歴
昭和63年に弁護士登録後、神戸市の事務所勤務を経て、平成4年に藤井義継法律事務所を開設。相続、離婚、不動産トラブルなど、家事・民事事件を多く取り扱う。 弁護士会の活動として、神戸地方裁判所鑑定委員や神戸地方法務局筆界調査委員を経験。平成16年には兵庫県弁護士会副会長も経験している。 弁護士歴30年以上、相続問題解決実績250件以上の豊富な実績があり、相続問題の早期解決を得意としている。 詳しい弁護士紹介はこちら>>- 相続放棄をしても生命保険金は受け取れる?
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