ほかの相続人が受け取った生命保険金に対して遺留分の請求をすることはできますか?

相続についてのご質問

Q.ほかの相続人が受け取った生命保険金に対して遺留分の請求をすることはできますか?

生命保険金は、遺留分侵害額請求の対象となりません。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人が遺産のうち法定相続分の半分(直系尊属の場合は、3分の1)の財産を相続する権利であって、遺留分を侵害する贈与や遺言がなされた場合、兄弟姉妹以外の相続人は遺留分侵害額請求権を行使して、侵害する範囲で遺言や贈与の効力をなくしてしまうことができます。

遺産として1000万円の預金があり、長男と長女が相続人の場合、この預金を全額払戻して現金として全て長男に生前贈与すると、4分の1の遺留分を有する長女は、生前贈与を特別受益として持ち戻し計算して、遺留分を計算し、遺留分を侵害する現金の生前贈与に対し遺留分侵害額請求権を行使して、遺産の4分の1の250万円を長男に請求することができるのです。

しかし、生命保険金は、遺留分侵害額請求の対象となりません。

裁判所は、生命保険については、生前処分行為とし、生命保険契約は受取人を第三者としてする第三者のための契約として、原則として相続ではないと考えています。

そうすると1000万円の一時払養老保険に加入して、長男を受取人とすれば、遺言ではないので遺留分は問題とならないのです。(平成14年11月5日最高裁判所判決)

しかし、裁判所も保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が特別受益のもち戻しを定める趣旨に照らし、到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当としています。

上記特段の事情の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきであるとしています(平成16年10月29日最高裁判所判決)。

実際に持ち戻しの対象となると判断した事例は

1.東京高決平成17年10月27日

相続人子2名
遺産総額1億134万円
相続人の1人が受け取った保険金1億129万円
特別受益として持ち戻しの対象となる。
.保険金÷遺産=99%

2.名古屋高決平成18年3月27日

相続人 後妻 先妻の子2名
遺産総額8423万円
後妻の受取保険金5200万円
後妻の婚姻期間 3年5か月
特別受益として持ち戻しの対象となる
保険金÷遺産=61%

以上から、保険金がおおむね遺産の50%を超える場合は、特別受益として持ち戻しの対象となり、遺留分を計算して侵害する場合は、遺留分侵害額請求の対象となることになります。

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この記事の執筆者

弁護士 藤井義継

弁護士 藤井義継

専門分野

相続・離婚など家事事件

経歴

昭和63年に弁護士登録後、神戸市の事務所勤務を経て、平成4年に藤井義継法律事務所を開設。相続、離婚、不動産トラブルなど、家事・民事事件を多く取り扱う。 弁護士会の活動として、神戸地方裁判所鑑定委員や神戸地方法務局筆界調査委員を経験。平成16年には兵庫県弁護士会副会長も経験している。 弁護士歴30年以上、相続問題解決実績250件以上の豊富な実績があり、相続問題の早期解決を得意としている。 詳しい弁護士紹介はこちら>>